小さいころ、「おだいじん」という言葉を聞くと、 大きな動物のイメージがあった。 「おだいじん」の尻尾にはきまって「さま」がつき、頭には「ふくしい」もついた。 裕福なお大尽様は、駅から自宅の門まで他所の土地を踏まずに帰れた。 腹が太く、寺社には信心篤く寄進し、 春の収穫を祈願する祭には錦とりどりの織り布を纏わせた馬を伴って神社に参拝した。 神社にはそれぞれ講があって、講中の人々が揃いの法被(はっぴ)を着て遠くからも集(つど)った。 この地は農村地帯なので、昔の名主やら名家やら豪農が点在する。 代々おなじ名を継承している家もある。 敷地には家屋敷と屋敷森と蔵があり、蔵の数が多いほど、福しいと言われた。 屋敷の周りには堀がめぐっていて、澄んだ水ならば川ダイコン(クレソン)が生えていて、 流れがあまりない堀ならば、子どもたちはそこでザリガニをつかまえる。 高い塀がまわしてあるので、門が開いているときでもないと中は見えない。 屋敷までには松や梅の日本庭園、屋敷の後ろは竹林と杉林、 いずれにしても家屋は高い屋根くらいしか見えない。 子どもたちは、お大尽の家は秘密めいていて、何をしているか気になって仕方がない。 誰が言い出したか、屋敷には鋳造の部屋があって、そこで江戸時代からずっと 貨幣を作っていると噂したお大尽がいた。 そのお大尽も、お上には逆らえず、 敷地の後ろがごっそりと切り取られ、そこには大きな道路が通った。 子どもたちは、屋敷森が削られて家屋が見えるようになるとがっかりして、 尻が丸見えになったとぼやきながら、それでも いったい秘密の部屋はどこだったんだろうと今でも言う。 その子どもたちも、今ではすっかりお婆ちゃんになって、 春彼岸にぼたもちをほおばりながら、お大尽の話をしている。 おはぎ ぼたもち 今夜のお写真は、お大尽の家いろいろ。 おまけ すこしまえの春
by NOONE-sei
| 2009-03-21 01:24
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